その研究は何の役に立つのですか?

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その研究は何の役に立つのですか?と尋ねられて,説明することが多い*1.尋ねる人は研究の道具的な価値を求めていて,道具を利用して何かをコントロールすることができると思っている.実用的な研究の場合には,その目的と手段を丁寧に簡潔に説明すれば事足りるし,尋ねた人はそれを求めているのだろう*2 *3.上手く説明すれば,励ましてくれるかも知れない 
 実用的ではない研究をしているヒトは,道具的価値は目の前にはないことに気がついているから,対話がかみ合わない確率は大きい.むしろ,研究の出発点が役に立つかどうかではなく,好奇心なのだ.とか言うのは当たり前で,あちこちで何度も何度も繰り返されたことだろう.
 数学を研究しているヒトが何の役に立つのかと尋ねられて,誠実に説明している様子をメディアで見たことがあった;そのときに心の中で思った.それが役に立つのかではなく,あなたを含む私達はそれに支配されていて,逃れることができないのだ,私達の行っている研究はあなたを自由にする為なのだ,と言ってやればいいのに,と.
 私達を取り巻く物・事柄と現象は,まだ明らかではない枠にはめられていて支配されていて,それは私達をも支配しているので,私達がコントロールする自由は事前的に与えられていない.私達を支配するルールを知って,現象を理解しようとするのが研究だし,その成果を体系づけるのが学問だ,支配しているルールを手に入れ,操作することが出来る様になった後に役に立つことができる*4 *5.それを利用して支配から逃れて,意のままに操ろうと思いついた人達がいて,その結果が今の世界.科学を手段として何かをコントロールすることを当たり前に思う様になったのは,ヒトの高次神経機能が進化したよりも,ずっと最近のことだろうと思う.

 「思い込みを捨てて,分からないに耐えて,あなたを自由にするために,私は研究する.(エメット・ブラウン)」*6 *7

*1:職業に直結している学部で,解剖学を教えているものだから,その講義や実習は何の役に立つのですか,と尋ねられることはほとんど無い.おそらくみんなは自明と思っている.ただその勉強はとても大変だから厳しい印象を持っているだろうとは思う.教育している学問と研究している学問が異なっているから,その研究は何の役に立つのですか?と尋ねられることは多い.

*2:役に立つという事では一点の曇りもない研究に降りかかったこと.

*3:

「iPS細胞」 支援打ち切り報道から一転、継続のなぜ?|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

*4:研究と学問のqualityが低いまま,利用したとき起きた悲劇.

*5:

en.wikipedia.org

*6:

https://ansaikuropedia.org/wiki/エメット・ブラウン

*7:

en.wikipedia.org