春休みの実習

例年,この時期になると実習を終えた2年生のなかから,もう一度春休みに実習をしたいのだが,という希望がある.

機会があるかどうか分からないけれど,それを行う理由があるから希望する,というのと,あらかじめそこに機会があるから申し込む,の間には大きな差がある.だから,私達はアナウンスはしない.申し出がなければそのまま,行わないこともある.

先日,8人が研究室を訪れた.私達は,これは教員がお膳立てしたものに載って,自動的に進み進まされるものではなく,学生が自発的に目的をもって計画を立てて行う事と伝える.内容について話し合って,質の高いものを行ってもらう必要がある,きっと彼らはやり遂げ,成果をまとめ,皆の前で発表して,春休みを終えるだろう.

ある年,春休みに実習したいとT君が申し出たので,同じような説明をした.彼は同様の希望を持つ他の数名とグループを作り,計画を立てて実習した.その半年後,研究室配属で実験をしていた他の学生から『「春休みに実習をして機嫌を取ったから進級できた」と彼が自慢げに言っていたけど,そんな事で再試験に合格するなんてことあるんですか』と尋ねられた.

私達はT君が再試験を受けていたことに気づいていたし,彼と話している途中や春休みの間に,彼が思っていたであろう事に気づかなかったわけではなかった*1.けれども,そんな意図に気づいていたにしても,それを理由に学修の機会を奪うことはできない.

ごまをすったから*2成績が良くなったりすることはない*3.彼は私達を信用しておらず,自分がまじめに取り組んでいない事を示した.彼の再試験の答案は合格に値するものだったから,随分とやるせない気分だった.

私達の学科は職業教育の学科で,意図して目的と手段をすり替えて,操作的に大学を終えてライセンスを得ようとする者はいる.彼らは一生学問には取り組まない*4

 

 

*1:私達がそれに気づかないとT君は思ってたのだろうか.

*2:または逆に真面目に努力しているから

*3:自分の能力や成果を信じることができずに,抜け道をさがして,自分を蔑める様なことをするのは何故か?

*4:この様な事は学位に関しても起きることがある.それは別の機会に書こうと思う