実験結果にむきあう

実験が,お仕着せのアイデアによるものでは無くて,自らの考え出した仮説に基づいたものであったなら*1,結果がどの様なものであれ,目の前に現れた物は,これまでの誰も観たことのなく,私が初めて観ているのだ,ということに気がついたのは,暗い部屋のなかで一人,蛍光顕微鏡の中をのぞき込んでいるときだった*2

「これまでの誰も観たことがない」とはどれ程の事か?ともう一度考えてみたら,世界中の誰も,ということだったし,歴史が始まってからずっと観たヒトが居ない,ということだと,気がついたときに興奮に震えた.

実験の規模に関わらず,どんなに小さな実験でもそれは同じだった.しっかりと見つめなければ,誰にも気付かれる事なく見逃されて,流れ去っていく現象がある事に気がついた.その時に押し寄せた気分は何か?と自分の中を探った後に,それが恐れだったのに気付かされ,緊張した.

誰も考えたことのないアイデアを追いかけるスリルは,置き去りにされる恐怖と表裏一体だった*3

*1:これまでに誰かが試したことをしらずに,オリジナルと勘違いしている場合は,だめですけどね.

*2:ポスドクの頃.

*3:それは競走に敗れる恐怖ではなかった.愚かに留まり続けて,気付かないままでいることの恐怖だった.