医学は一般性と個別性を包含する.一般性(普遍性)/個別性をx軸にして,社会性の量をy軸にした空間に,研究と教育を置いてみる*1.
教員が講義して学生が聴くという伝統的な教育は,講義室や実習室の中に留まって教員や学生同士で相互作用するだけなので,社会性は少ない.他方で,コンテンツは世界中で共通で普遍的なので,一般性は高い(図1).
CBT/OSCEを終え臨床実習を始めるときや,卒業して研修を始めるとき,学生は生き生きと輝く.臨床実習や研修医の経験は個別的で社会性が高く,その経験に「実感」が伴う.それは,講義室で過ごしている間「おあずけ」されて,ずっと得ることができなかったものだ(図2)
従来の教育が学問の体系の整合性や美しさの上にあぐらをかき,普遍性の中に埋没し,生き生きとした実感を提示しなかったのならば,私達は反省する必要がある.それを改善するために,PBLを行ったり,Active Learningを導入したりする.それは空間の右下(普遍性大,社会性小)に留まっていたものに,議論を取り入れ相互作用を増やして社会性を増大させて上方に拡大し,知識の適用と技能の経験を取り入れて個別性を導入して左方に移動させることで,不足していた実感を高めることだ(図3).実感は能動性を高め,自修力を増大させる.
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しかし.個別性の中にも落とし穴はある.個別的な出来事は外部から訪れるもので,他動的だ.何所か別のところで生産され維持される医学の体系を享受して適用するだけだ,と感じるときがあったら,個別性の中に埋没するかもしれない.個別性だけで満足できなくなったときに,知識を発掘し生産する研究と,知識の体系を継承する教育からなる,普遍性の中に戻ればいい.
研究は普遍性が高いが社会性が低いというイメージで語られることがあるが,それは誤解だ(図4).
研究の中には日々の実験だけでなく,成果の発表(学会発表,論文発表)や,グラントの獲得(社会との接点!!!!)が含まれ,普遍性と社会性の両方が求められる(図5).