房室結節(atrioventricular node, AV node)*1の探し方について,Yさんと話した.田原淳*2は心を数多くに薄切して,肉眼と組織切片の観察をつきあわせてAV nodeを発見したと言われている.刺激伝導系の剖出の難易度は低くない.
私が大学院生だった頃,AV nodeの細胞生物学を行っていた上級生はウシを使っていた.彼は,”ウシでは右線維三角の部分が軟骨組織でできていて,その上にある組織の色が少し違う",と言っていた.彼はと畜場に出かけていってAV nodeを氷冷培養液にいれて持って帰ってくるので, この目で剖出を見たことはなかった.
大学に就職したときに当時の教授が教えてくれた方法は,右冠状動脈*3の後室間枝が分かれるところで,中の方に侵入する房室結節枝を探して,奥まで追求して,色合いの異なる組織を探すという方法だった.やってみると,おおよその場所は検討つくが,どれがAV nodeか,固定標本では色も変わっているのでAV nodeか見分けるのは容易ではなかった.指をあてて触覚を頼りにしてそのあたりの硬さが異なっている結節があることを感じることができるので,それがAV nodeだと納得していたが,「観たか」と言われると,たいそう頼りない.
Yさんが探してきた文献*4によると,心室中隔膜性部の後縁を上下に走行するHis束を見つけて,それを上にたどり,AV nodeを見つけるという.納得してさらに調べてみると,2つの方法を併用して探すと比較的容易に剖出できるという*5.
考えてみるとこの2つの方法には共通点がある;容易に区別できる関連構造を最初に見つけて,そこからたどって目的にたどりつくこと.そう考えると,実験や論述の組み立てのほとんどが,この様式に当てはまることに気付き,ひとりで驚いていた.*6
*1:https://en.wikipedia.org/wiki/Atrioventricular_node
*2:
*3:多くの場合
*4:
http://www.jats-oj.org/Archive/ArticleDetail?full_dir=eb9nikyo/1989/003702/005
*5:
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/organic/image/sigekidendoukei4.pdf
*6:3月3日にYさんとやってみた.白いHis束を剖出し,写真に収めた.上方に扇型に連続するAV nodeはこれなのか?という感じで,右冠状動脈のAV node branchはそこにたどり着いていた.