頸部の交感神経幹は,頸動脈鞘に包まれる総頸動脈・内頸静脈と迷走神経の深部にある.そこには節前神経線維が節後神経細胞とシナプスを作り,末梢へ中継する上頸・中頸・下頸神経節がある.
上頸神経節は総頸動脈が内頸動脈と外頸動脈に分岐する辺りの深部に有る大きな神経節で,節後線維を血管壁に沿って,たとえば顔面や上頸部の粘膜・種々の外分泌腺や松果体・瞳孔散大筋などに送り,交感性に支配する.下頸神経節は,胸部の第一交感神経節と融合して,太い神経線維束を多方向に放射状に伸ばす様子から,ふたつ合わせて星状神経節(頸胸神経節)と呼ばれる.これらの神経節は大きいので見逃す事はない.
ところが,中頸神経節がどこにあるか悩むことがよくある*1 *2 *3.頸部の交感神経幹には上・中心臓神経が並行して走行しているから*4,複数の神経線維束を前にして,悩むことになる.教科書的には中ほどに神経細胞が集積して膨らみをつくる中頸神経節の存在によって容易に交感神経幹を区別できるはずなのに...
うっかり「中頸神経節がない」という気持ちになるが,おそらくそれは意味が違う.自律神経性の神経節は,時に神経線維束の経過の中に分散して分布することが有り*5,顕著な膨らみがなく,肉眼的に区別することができないことがある*6.膨らみが観察されない交感神経幹においても,その中に節後神経細胞が埋め込まれており,情報を中継し増幅している.
*1:頸部の観察の際にまず探すのが中頸神経節.その後に星状神経節と上頸神経節を見つけることになるので,最初に見つけにくい中頸神経節に取り組むことになる.
*2:何の苦労もなく中頸神経節をみつけることもあるが
*3:ついでに,左右で異なる事が頻繁にある.
*4:上・中・下頸神経節から心臓に向かって,上・中・下心臓神経がのび,迷走神経や反回神経からの上,中,胸心臓枝および心臓神経節と共に心臓神経叢を作った後に,自律神経性に心臓を支配する.
*5:同様の例として,腹部の交感神経節後神経細胞の一部が腹腔神経節を離れて,大内臓神経の走行する途中に集まって神経節を作る事がある.大内臓神経神経節である.
*6:私が教育に関わるようになった頃,見つけられない自律神経節について尋ねると,「同じように疑問に思って,組織標本をつくって観察すると,膨らみのほとんど無い神経線維束のなかに神経節細胞が埋め込まれていた」と当時の研究室の教授が教えてくれた.