Feneis' 図解解剖学事典

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「イラスト解剖学では、股関節の外転に働く筋は中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋の3つと書いてあったんですが、縫工筋も外転時に働きそうだなと思って縫工筋の作用をネットで調べてみると、確かに外転も作用の一つと書いてあったので少し疑問に思いました。」

という質問をうけたので,

「結論を先に言うと,どちらも正しい,です.
その理由は,本とxさんがネットで調べた記載は視点が異なっているからです*1 *2 *3 *4 *5 *6 *7.縫工筋は股関節の屈曲・外転・外旋に関与しますが,作用の割合で言うと屈曲に関わる程度が大きく,少し外転・外旋です.前者は,下肢帯の筋を股関節の運動様式(外転・内転etc)によって分類しています.分類ですから,2つ以上のカテゴリーには入れていないのでしょう.後者は,縫工筋に視点をおいて,分析しています.ですから縫工筋は屈曲・外転・外旋に関わると記載します.

xさんの疑問と質問はじつはとても大事です.私達は身体の構造を考えるとき,ついつい,成書の記載を正しいものと考えて,その記載を実際の構造にあてはめたくなりますが,実はこれは逆で,身体の構造がそこにあって,その有様をどの様に理解するかを言葉で記載したものが本に載っています.その際に,記載するヒトの視点があって,それに沿って構造を理解する様式を言葉に落とし込んでいきます.著者によって異なった視点を取るとき(例えば,運動様式で筋を分類するのか,それとも筋の作用を分析するのか)に記載方法は変わります.記載の裏には意図があります.著者がどんなことを考えているのかを知る手掛かりがそこにあります.」

と返信したら,

「理解できました。その運動に主に関わる割合によって運動からの視点と、各筋からの作用をみる視点とで記載が異なってくるってことですね。」

という返事が来てうれしかった.

 

*1:細かな調べ物には「Feneis' 図解解剖学事典」(医学書院)が正確です.ネットも悪くないものもありますが,ものに依ります.

*2:

de.wikipedia.org

*3:

https://www.amazon.co.jp/図解-解剖学事典-第3版-Heinz-Feneis/dp/4260000063

*4:

「図解 解剖学事典 第3版」―Heinz Feneis 原著/山田英智 監訳/石川春律,廣澤一成,坂井建雄 訳 (臨床泌尿器科 68巻2号) | 医書.jp

*5:Feneis'は学生の時に青い装幀の初版を使い,教員になってエンジ色の第2版を使い,5年前に改訂された第3版を買った.

*6:最近になってFeneisがすんでいた街に,自分も3年住んでいたことを知った.

*7:英語のwikipediaの解剖学は良いと思います.