「トイレを我慢すること」の解剖学的基盤②

骨盤には二種類の神経叢がある.仙骨神経叢はL4からS3の脊髄神経前枝から構成される体性の神経叢で、解剖学的会陰の前半分(尿生殖三角)にあって左右を結ぶ筋束からなる深会陰横筋を支配する.深会陰横筋とその筋膜(上・下尿生殖隔膜筋膜)を合わせて尿生殖隔膜といい,尿道が貫く.尿道の周りでは深会陰横筋の筋束が輪状に取り巻き,尿道を圧迫して閉鎖するので,この部分を尿道括約筋と呼ぶことがある.尿道括約筋は体性運動神経に支配される骨格筋で、随意運動を行うことができる.

 

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Henry Vandyke Carter (1831–1897) in Henry Gray. Anatomy of the Human Body. 1918. FIG. 542

 

 膀胱の筋層は内縦,中輪,外縦の三層の平滑筋層からなる.膀胱三角の1つの頂点で,尿の流出口にあたる内尿道口にあって,その閉鎖を担当する平滑筋を想定し,機能的な筋として,内尿道括約筋と呼ぶことがあるが,顕著な構造としては認めることが難しいと言われている.膀胱の平滑筋は骨盤にあるもう一つの神経叢、骨盤神経叢に支配される.骨盤神経叢は交感神経幹から分かれる仙骨骨盤神経と仙髄の副交感神経由来の骨盤内臓神経が作る自律神経系の神経叢で,機能的な内尿道括約筋の閉鎖は交感神経系の優位によって,開放は副交感神経系の優位によって不随意的にもたらされる. 

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The interior of bladder. Henry Vandyke Carter (1831–1897) in Henry Gray. Anatomy of the Human Body. 1918. FIG. 1140

 排尿を我慢しつつトイレへ向かう時の個体においては、2つの調節システム:体性と臓性の神経系が、厳しくせめぎ合っている.膀胱内容の蓄積と内圧の上昇が自律神経系を介した反射を起動して,膀胱体部の平滑筋を収縮させつつ内尿道口の開放を促して,排尿を導く一方で,個体が置かれた時間的空間的な情報を取り込んで統合し,排尿するにふさわしい環境では無いという判断を,体性の運動出力として下行性に送り,仙骨神経叢経由で深会陰横筋(尿道括約筋)に及ぼし,収縮させている. 2つのシステムの相反する拮抗が極度の緊張感を生み出すのである*1 *2 *3

 

*1:他方で,2つのシステムの共同と協調が開放感,安堵感や達成感を生み出すことは,システムの相互作用を考える上で重要である.

*2:このオチはどこかで見たことが,,,,

*3:

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