医学科2年のAさんに「どうして動脈はarteryと呼ばれたり,trunkと呼ばれたりするのですか?」と尋ねられた.
多くの場合,動脈は2つに分岐するのだけど,その時に本幹から接線上にのびるように枝が分かれることが多い.大動脈弓はその最たる例である.ところが,身体の中で数カ所,本幹から3つ以上の枝が,手を広げるように伸びる場所がある.例えば甲状頸動脈(thyrocervical trunk, truncus thyreocervicalis)*1 や腹腔動脈(celiac trunk, truncus coeliacus)*2 である.この様な場所は trunk (truncus)と呼ばれる*3 *4.
「でもねぇ,成人においてtrunkと呼ばれるけど,二分岐のところもあるのだけどねぇ...」と私が種を蒔いたのを横で聞いていたB君がすかさず「消えてしまったのじゃないですか?」と指摘したのだった*5.
肺動脈幹(pulmonary trunk, truncus pulmonalis)は右心室を出た後,右と左の肺動脈に二分岐しているが,trunkと呼ばれる *6.もともと肺動脈幹は,メインルートの動脈管(arterial duct, ductus arteriosus)*7が左右の肺動脈に分かれていたが,動脈管は胎児循環が終わった後に閉鎖して,動脈管索(arterial ligament, ligamentum arteriosus)*8 に二次的に変わってしまっているのだ*9.
動脈の分岐は複数の適応度地形*10のピークに向かって分断選択*11を受ける形質そのものである.おおよそ二分岐が普通であるが,まれに適応度地形の谷底から3つのピークに向かって適応度の斜面を登っていったのだろう*12.
*1:https://en.m.wikipedia.org/wiki/Thyrocervical_trunk
*2:https://en.m.wikipedia.org/wiki/Celiac_artery
*3:celiac arteryと呼ばれることもある.英語(または米語)では何でもありな感じである.これはこの言葉が英語における外来語で,あたかも私達がカタカナ言葉で外国語を日本語に書き下している様なもので,本来のラテン語のノミナから変わっていくのである.
*4:日本語でも甲状頸“動脈”とよぶので,同じなのですが,,,
*5:AさんもB君も凄いのである.
*6:とはいえ,こちらも英語(または米語)ではpulmonary arteryと呼ばれることも多い.理由は同様である.
*7:https://en.m.wikipedia.org/wiki/Ductus_arteriosus
*8:https://en.m.wikipedia.org/wiki/Ligamentum_arteriosum
*9:英語または米語の解剖学用語にはその由来や起源を表現する機能は少なく,見た目をそのまま表現することが多いように思う.プラグマティズム(道具主義・実際主義)が生まれた地ならではである.
*12:すごいなぁ,これ.