身体の中で機能的な終動脈を有する代表的なものは中枢神経系である.間脳の一部が眼胞として突出してできた網膜も例外では無い.網膜は外側の網膜色素上皮と内側の神経性網膜からなり,外側と内側の血管系によって二方向から栄養される.
網膜色素上皮の外側には,豊富な血管を含む脈絡膜が覆っている.脈絡膜は色素上皮経由で間接的に,神経性網膜の最外層,視細胞の細胞体が分布する外顆粒層までを栄養する.網膜の内側には,視神経の中を走行し視神経乳頭から眼球に侵入する網膜中心動脈があり*1,神経性網膜の内側寄りの層,視神経線維層と網膜神経節細胞層から双極細胞が分布する内顆粒層までの層に栄養を与える.
色素上皮と神経性網膜の相互作用が失われた状態が網膜剥離である.脈絡膜からの栄養を色素上皮が視細胞へ渡すことができず,視細胞は変性し,失明に至る.他方,双極細胞と網膜神経節細胞は網膜中心動脈からの血流が保たれるので,変性せず,保たれる*2.
網膜中心動脈が閉塞したとき,神経性網膜の内側の層;網膜神経節細胞層と内顆粒層が虚血に陥るが,中心窩は脈絡膜側からの栄養によって保たれる.眼底像では蒼白になった網膜の中で,境界明瞭な赤いスポットが黄斑(解剖学的な中心窩)の位置に観察される.cherry red spotである.