タンニン,三叉神経,ラムゼイ・ハント症候群 (或いはその後の干し柿)

f:id:kapibarasenn10:20171205124833j:plainタンニンなどの渋味の感覚過程はまだ十分に明らかになっておらず,味蕾に受容体は見つかっていない.渋味は味覚というよりはむしろ体性感覚のひとつではないかと考えられている.それはカプサイシン受容体の解明によって辛味が体性感覚であることが実証されたことを思い出させる.とすれば渋味は,顔面神経の味覚線維を介するのではなく,三叉神経を介して中枢へ送られるかもしれない.受容体を同定して,嗅覚情報処理経路を確認するのと同じ方法で,受容体陽性細胞にレポーターを発現させて,軸索路を標識すれば良い.重要な仕事だが,型にはめてトレースするような仕事は誰かに行ってもらおう.そのような訳で間接的に渋味感覚経路を調べる方法について考えた.

 ラムゼイ・ハント症候群*1の患者に味覚検査をする.味覚五要素が障害されていることを明らかにする.辛味が障害されていない事を明らかにする.最後に渋味の感覚を検査する.障害されていないならば,渋味感覚経路は顔面神経味覚線維ではないことが示される.三叉神経節に帯状疱疹ウィルスが感染し,発症している患者に同様の検査をする.味覚五要素が障害されておらず,辛味が障害されている事を明らかにする.最後に渋味感覚の検査をする.障害されているならば,渋味感覚経路は三叉神経の体性感覚線維であることが実証される.

 この実験の重要性はBrown-Sequard症候群*2のような解離性感覚障害を「あじ」において同定することにあるが*3,経路の交叉性が問題になるかもしれない.両側性のラムゼイ・ハント症候群と三叉神経帯状疱疹ウィルス感染の患者を検査することができれば良いが,そうでない場合には上手くいかない可能性がある....という事を柿を見ながら考えて,調べてみると似たようなアイデアの仕事は3年前に発表されていた*4,というお話.

 渋柿を干して数日後から,表明に斑状の黒い領域が現れ,拡大している.水溶性のタンニンは,干すことで酸化されて不溶性になり,析出して黒く見えているのである.不溶性タンニンは唾液に解けず,感覚刺激として機能しないので,完成した干柿は渋くない.それは期待どおりに順調に作られつつあるようである.

*1:Ramsay Hunt症候群顔面神経膝神経節に帯状疱疹ウィルスが感染することで引き起こされる.舌前2/3の味覚の消失,外耳道と耳介や口腔粘膜と咽頭粘膜に水疱性の発疹があらわれる.

*2:脊髄半切症候群

*3:辛みと渋みは体性感覚なので,解離性味覚障害というと間違いになってしまう.

*4:Schöbel N et al., Astringency is a trigeminal sensation that involves the activation of G protein-coupled signaling by phenolic compounds. Chem Senses. 2014 Jul;39(6):471-87. doi: 10.1093/chemse/bju014.