ナメクジウオ*1には頭がない.前方に開いている口に始まり,大きな咽頭を経て,直線的に肛門につながっている.咽頭には鰓があり,口から吸い込んだプランクトンを濾し取って食べる.光感受性細胞が前方にあるが,顕著な脳はない.ナメクジウオに類似した生物の化石は先カンブリア期の地層から見つかっており,脊椎動物の祖先と考えられる*2.
先カンブリア紀まで,精度の高い感覚器を有する動物はいなかったが,眼を持つものが現れ,捕食という新たな生態学的相互作用がうまれ,餌食として食べられる生き物(被食者)に選択圧がかかった.その結果,硬い殻や棘などの防御形質が進化し,防御形質の進化は,餌食を襲う生き物(捕食者)に選択圧をかけた.このような捕食者被食者相互作用が生じた結果,進化的軍拡競走*3が起き,多様な形態をもつ動物が進化するカンブリア爆発がおきた,と考えたのはParker*4である.これを光スイッチ説という*5.
きっかけは何であれ,捕食者被食者相互作用はボディプラン(体制)の進化に重要だったのだろう.分散していた感覚器*6は前方に集中して顔を作り,大量に流れ込む情報を処理する大きな脳とそれを収める頭を作った.単純な取水口だった口の周りに捕食に対応した構造*7が進化した.それから長い長い時間を経て,社会性とそれを支える構造がヒトには進化した*8.
*1:
*2:
*3:
Evolutionary arms race - Wikipedia
*4:
Andrew Parker (zoologist) - Wikipedia
*5:眼が進化した背景には,植物プランクトンの光合成の結果,コストを賄う為に十分な酸素が蓄積されて濃度が上昇していたことに加えて,種間の相互作用量が徐々に増大した結果,利用できるエネルギーが増加して,防御形質や眼のコストを払うことができる状況があった事などが,相互に関連したと考えられる.従って,1つの要因によってカンブリア爆発が引き起こされたとは考えにくい.