動きを緩衝する空間;くも膜下腔と脳脊髄液

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Blausen.com staff (2014). "Medical gallery of Blausen Medical 2014". WikiJournal of Medicine 1 (2). DOI:10.15347/wjm/2014.010. ISSN 2002-4436


スーパーマーケットなどで売っている豆腐はプラスチックパックの水の中に入れられて,売られている.パックはさほど強度のあるものでは無いが,ある程度の力が外から加えられたときにはそれを受け止めて,内部の水と共に,衝撃や振動を和らげるので,豆腐は無残に壊れることはない.このとき,豆腐の周りの空間とそれを満たす水は,外的な力による動きを緩衝し,物理的に豆腐を保護する機能を有している.

 頭蓋骨によって作られる閉鎖された頭蓋腔の中に脳は納められている.脳はその周囲にくも膜下腔をまとい,その中で脳脊髄液に浮かんでいる.頭蓋に加えられた外的な力は頭蓋を揺さぶるが,くも膜下腔を満たす脳脊髄液がその衝撃を受け止めて緩衝し,脳の実質に直接に伝わる力を弱め,まるでパックの中に浮かぶ豆腐のように,脳は保護される*1

 身体の中では,空間のあるところに動きがあり,空間を少量の液体が満たしている.それは摩擦を減ずる*2ばかりでなく,動きを緩衝する.空間が失われたとき,動きは緩衝されず,機能が障害される*3

 「脳脊髄液」と「豆腐のプラスチックパックを満たす水」は同様の機能をもつが,起源が異なるので,相似である.しかしながら,自然選択された構造ではないので収斂進化ではない.

*1:限度を超えて強く揺さぶられた時には,力が加わった場所と反対の位置に傷害(反衝損傷 contrecoup injury)が起きることがある.

*2:心臓は心膜腔という空間をまとい,能動的な動き(心拍動)を可能にしている.同様な空間には関節腔,腱鞘,腹膜腔などがある.肺は胸膜腔という空間をまとい,圧変化に伴う受動的な動き(肺の拡張)を可能にしている.「空間を占拠するもの;心膜腔と心タンポナーデ,胸膜腔と気胸 - カピバラ銭湯

*3:くも膜下腔と脳室を満たす脳脊髄液の総量はおよそ80〜150 mlといわれている.外傷などの際の機械的な衝撃の結果,髄膜に穴が開き,脳脊髄液が漏れ出し,失われることがある.脳脊髄液減少症である.2000年に篠永が指摘し,2007年に脳脊髄液減少症の診断治療ガイドラインが定められた.http://www.id.yamagata-u.ac.jp/NeuroSurge/nosekizui/index.html