広く伝える構造:自律神経性節前線維と節後線維

発生期の神経管の内腔の側壁には延髄から脊髄にかけて長軸方向に走る溝(境界溝 Sulcus limitans)が現れる.境界溝の背側から腹側にかけて異なった性質の神経細胞が長軸方向にグループを作り,7つの円柱状の構造が並んだ神経管が形成される*1.境界溝の背側には4つの神経細胞群(背側から腹側にかけて,特殊体性求心性,一般体性求心性,特殊内臓性求心性,特殊内臓性求心性)があり,一本の神経線維が末梢から中枢神経系に情報を運ぶ.

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延髄上部(open medulla)の神経細胞群の円柱状構造

 境界溝の腹側には3つの神経細胞群(背側から,一般内臓性遠心性,特殊内臓性遠心性,一般体性遠心性)があるが,一般内臓性遠心性(自律神経性遠心性)は2つの神経細胞(自律神経性節前神経細胞と節後神経細胞)が直列に並んで接続して効果器に至る.これは1つの神経細胞が伸ばす軸索が効果器に繫がる特殊内臓性遠心性と一般体性遠心性とは異なっている.

 

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節前神経細胞と節後神経細胞.実際の節前神経細胞は多くの節後神経細胞シナプス結合する.

  一般内臓性遠心性(自律神経性遠心性)の節前線維は,実際には多数の節後神経細胞シナプスをつくる.さらに節後神経線維は髄鞘を持たない無髄線維で,標的器官の中では周辺に伝達物質を周囲に放出し,広い範囲に影響を及ぼすことを可能にするvaricocities(線維の膨らみ)を多く持つ.一般内臓性遠心性線維の構造は広い範囲に情報を伝えて一斉に調節することを可能にすると考えられる.自律神経系は身体の中の状況を広く変更する*2 *3

 これは骨格筋に影響を及ぼす特殊臓性および一般体性遠心性線維が空間的に限られた影響を与え,特定の筋肉を収縮させることで,身体の運動を引き起こして,外界との特定の相互作用を引き起こすことと対照的である.

*1:神経管では7つの円柱状の神経細胞群が背側から腹側にかけて配置している.最も背側に①頭部のみにあって外界の情報を取り込む感覚器に対応する求心性線維(特殊体性求心性線維;聴覚と平衡覚)から情報を受け取る神経細胞群が在り,その腹側に並んで②頭部から体幹まで広く分布する外界の情報を取り込む感覚器に対応する求心性線維(一般体性求心性線維;体性感覚)から情報を受ける神経細胞群,さらに③頭部にあって身体の内側の情報を取り込む感覚器に対応する求心性線維(特殊内臓性求心性線維;味覚)から情報をうける神経細胞群,④身体の内側から広く情報を取り込む求心性線維(一般内臓性求心性線維;内臓感覚を受け取る自律神経性の求心性の線維)が並ぶ.境界溝をはさんで,⑤身体の全体に線維を送り,内部の状況をコントロールする遠心性線維(一般内臓性遠心性線維;自律神経節前神経細胞のグループ),⑥頭部の鰓弓由来の骨格筋に線維を送りコントロールする遠心性線維(特殊内臓性遠心性線維)があり,最も腹側には⑦体節由来の骨格筋に線維を送りコントロールする遠心性線維(一般体性遠心性線維)を伸ばす神経細胞群がある.

*2:一般に,交感神経系は闘争と逃走,副交感神経系は安静と休息にかかわる,と広く言われる.

*3:もっと広く伝える構造がある.それについてはまたいずれ.

もっと広く伝える構造:副腎髄質と内分泌器官 - カピバラ銭湯