というわけで,今日も柿をみながら考えている.
捕食者被食者関係が淘汰圧として生物の形質の進化に影響を与えることが知られているが,植物は移動できないので,トゲなどの機械的な構造や化学物質の産生によって,昆虫や草食動物の植食を逃れる防御機構を進化させている.渋柿が産生するタンニンは植食者の口腔粘膜の上でタンパク質に結合して変性させることで,渋み刺激を引き起こして植食者を遠ざけ,個体の適応度を上げると考えられる.
タンニンを産生しない柿(x)の適応度(確率)は最大値1から,植食者による適応度の減少分 (A) の差で表現される.
タンニンを産生することで防衛努力する柿(x')の適応度関数は
f(x') = (1-x') - (A-B)
である.
x'はタンニンの産生に伴うエネルギーコストの負担分を表し,Bは防衛努力による植食者の効果の減少を表す.実際にはタンニンを持つ柿の木は植食者を遠ざけることで,周辺の柿の木の植食の確率も下げ,他個体の適応度も上げている.このような柿の木間相互作用 (C) を考慮すると,
f(x') = (1-x') - (A-B-C)
柿の木がタンニンを生産するように進化した背景には,
B + C > x'
効果がコストを上回っているときに,柿の渋みが進化したと考えられる.
ヒトは渋柿を干して食べる方法を考案するという行動形質の変化(表現型可塑性)によって,柿の防衛戦略を破って植食者として参入して,相互作用が変わったと考えられる.その効果 (D) を考慮すると,
f(x') = (1-x') - (A-B-C+D)
となるので,
B + C - D > x'
柿の防衛戦略が進化的に変更されるには,ヒトはたいそう多くの干し柿を長いあいだ食べる必要があるようだ.試しにK君がひとくち食べてみたところによると,もう渋くないそうである.