GolgiとCajal

CBTとOSCEを終えて,臨床実習を始める直前の4年次生に,神経系の研究と診療をしている教員が集まって,一科目作っている*1 *2.授業を行った後のアンサーシートに「どうも自分は神経系がむいていないようです」とK君が書いていた.実は自分も学生の時に同じようなことを感じたのだ*3

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Camara lucida drawing of a Purkinje cell in the cat's cerebellar cortex, by Santiago Ramón y Cajal. Legend: (a) axon (b) collateral (c) dendrites. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Purkinje_cell_by_Cajal.png

 神経系は神経回路から成り立っているが,マクロ標本やHE染色のような一般的な組織標本では,それを実感することは難しい.他の器官系や臓器の組織構造はイマジネーションを刺激して機能を類推させるが*4,神経系の組織像にはそんなところがほとんど無い*5
 神経細胞と細胞から伸びる線維が様々な領域を接続して,神経回路を作っていることが明らかにされたのは, Golgiによる染色法(ゴルジ染色)のおかげである*6神経細胞の全貌が染め出された標本*7を観察して,神経回路の構造の論争があったのは有名である.Golgi*8神経細胞は連続していて,合胞体としての神経回路を作っていると考えた*9. Cajal*10神経細胞の突起の末端は連続しておらず,接触していると考えた.光学顕微鏡における観察だけではこの論争の決着を付けることはできなかった*11

*1:http://syllabus.adm.u-toyama.ac.jp/syllabus/formatter/pdf/1522285010_syllabus.pdf

*2:私達の部局(学術研究部医学系)には神経系の研究者が多いのである.私は1回目を担当.

*3:当時は自分が神経系を研究するようになるとは想像もしていなかった.面白さが分かったのは,しばらくした後のことだった.

*4:たとえば,肝臓の組織をはじめて見たとき,そのパターンに驚かされた.

*5:見た目に惹き付けられる部分が少ないのかも知れない.むしろ,なんでこんな程度の見た目のものが,動物をコントロールしているの?という感じ.神経科学の分野には工学系のヒトやら,心理系のヒトやらがいて,研究者のバックグランドはとても多様である.彼らが構造に興味を持って,分野を選んだ訳ではないだろう.いろいろな興味の入り口があるのだろう.そのおかげで神経科学の拡がりは大きく,奥行きはふかい.

*6:

en.wikipedia.org

*7:Golgi染色では,少ない頻度で神経細胞が散在して染め出されて,なおかつその細胞に限っては全ての突起が描出される.Golgi染色の機序は,今になっても,まだ明らかではない.

*8:

en.wikipedia.org

*9:reticular theory

*10:

en.wikipedia.org

*11:ご存じのように,正しかったのはCajal.神経回路は合胞体ではなく,神経細胞の突起の末端が接触して,シナプスを作っている.Cajalはこのneuron theoryの祖.