大気中の水蒸気圧が他の部分に比べて高まった領域では,微細な水滴が光の散乱を引き起こすので,他の領域に比べて白く見える; 雲である.雲の形は水蒸気圧,気圧と気温や風速・風向によって影響されるから,雲の形 (c) は空間における水蒸気圧(p)・気圧(P)・気温(T)・風(w)・時間(t)の関数で,
c = f(x, y, z, p, P, T, w, t)
と表すことができる*1.
cが閾値を上回った時に,空(そら)の領域の色が変わるのだろう.飽和水蒸気圧 (s) を上回ると,水蒸気は大気中のエアロゾルを核にして,水滴をつくり,可視光を散乱させるから,雲が生じる水蒸気圧は飽和水蒸気圧より大きいに違いない.
c ≧ s → 雲
光の散乱を引き起こす水蒸気の分布マップを間接的に可視化する関数が,空の上に浮かぶ雲.そして,雲の中にある水滴が落ちてくるのが雨なので,雲は雨が降る可能性(0 < probability ≦ 1)を空間的なマップとして可視化する関数でもある.
他方,私達の視覚系の受容野(可視光域)は網膜およびその下流の神経回路によって規定されている.視細胞の可視光域は進化によって選択されていると考えられる.降雨は,私達の身体を濡らしその体温を奪い,餌食の行動への影響を介して捕食機会に影響を与え,生育環境を変更する等の事を通じて,おそらく適応度を下げる方向に少なからず影響を及ぼす.降雨可能性空間マップ(雲)がこの可視光域に入っている事は,降雨が視覚系の進化に選択圧を及ぼした可能性を考えることができる.降雨が適応度に影響を及ぼさない動物においては,異なった視覚特性が選択されるので,降雨可能性空間マップ(雲)を認識しない視覚系を有する動物がいる可能性もある.
そんな事があるだろうか?水の中で暮らす生き物,たとえば魚は雲を認識することで,行動を代えて適応度の低下をあらかじめ回避するという行動形質を進化させるbenefitは少ないだろうと考えられる.他方,陸上生活の後に海に戻った脊椎動物,イルカとかクジラ,の視覚系は陸上生活の時に獲得した降雨可能性空間マップ(雲)を認識する形質を保存しているかもしれない.
この二種類の動物の降雨可能性空間マップ(雲)認識特性を比較すれば,仮説を検証できるのだけどなあ,と空を見ながら考えていた.