心膜腔と胸膜腔はそれぞれ,心臓と肺の動きを可能にする構造である.
一生の間休むこと無く動き続ける心臓は,縦隔下部の中部において心膜腔の中で宙づりになっている.心膜腔には少量の漿液(心嚢水)があり,心外膜と漿液性心膜壁側板の間の摩擦を減じている.心膜腔の機能は病的な状態を想定すると,容易に理解できる.心筋梗塞などによる心筋の破壊で心の三層(心内膜,心筋層,心外膜)に裂け目が生じ,心膜腔に急激に出血することがある.心膜腔内の圧と心内圧が等しくなり,心臓は高い圧力によって押さえ付けられ,動くに動けなくなり,心拍出量が無くなり,急激なポンプ不全に陥る;これを心タンポナーデという.外来のもの(血液)が空間を占拠することで,本来の心膜腔が失われ,機能不全に陥った結果,心の動きが妨げられる.
肺は胸膜腔という空間を周りにまとっている.胸腔内圧は陰圧で,肺の拡張を保つ.横隔膜と胸郭の呼吸筋の作用で胸腔内圧は変動する.この圧変動によって肺は受動的に拡大と縮小し,肺胞へ吸気を取り入れ,呼気をはき出す.胸膜腔には少量の胸水があり,肺胸膜と壁側胸膜の摩擦を減じている.肺胸膜に小さな裂け目が生じ,胸膜腔に空気が侵入する傷害がある.このとき,傷害側の胸膜腔内圧は外気圧と等しくなり,陰圧が失われ,それまで受動的に拡張していた肺は虚脱し,縮んでしまう;気胸である.空気に満たされた胸膜腔では,呼吸運動に伴う内圧変動は起きず,虚脱した肺は拡大せず,ガス交換は行われない.外来のもの(大気)が空間を占拠することで,本来の胸膜腔の機能が失われ,肺の動きが妨げられる.
空間のあるところに動きがある.空間を少量の液体が満たし,摩擦を減ずる*2.動きは空間の中で起きる.何ものかが空間を占拠したとき,動きを妨げて,不自由にする*3.