前腕の筋;伸筋派と屈筋派

口頭試問で前腕の屈筋について尋ねたときに,S君は「自分はどちらかと言うと伸筋派なので,,」といいながら少し困った風情で屈筋を説明しはじめたが,その頃の私は〜自分も伸筋派だなあ〜と密かに共感していた.前腕の伸筋群の構造はシンプルなのだ.私はシンプルな伸筋が好きで,手首と指を伸ばす動作が好きだった.そのシンプルさがS君を伸筋派たらしめているのだろうと想像していた.
 それからずいぶんと経っているが,現在の私は実は,屈筋派である.末節骨に停止する深指屈筋腱と,中節骨に停止する浅指屈筋が立体交差を作っている様は美しい.それらの多くの腱が手根管の狭い空間の中に整然と納められながらも,腱鞘が円滑な動きを保証している様子も素晴らしい.

 そんな話をしていたら,整形外科出身のM先生によれば,そんなに言うほどのことはなく,機能を考えれば当たり前,とのこと.個人的な好みの話と一般的なことを混ぜてしまったことを.少し恥ずかしく思ったが,でも,握りしめる動作を含めて,屈筋に惹き付けられる.
 情報を内化して外化する経験を通じて,理解は固定化するというよりも,広がりや深さが変わり,むしろ柔軟に広がっていく.

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*1:Anterior forearm. Henry Vandyke Carter (1831–1897) in Henry Gray. Anatomy of the Human Body. 1918. FIG. 415