Galenusとda Vinci;中央を周辺が変える

実習の再開の目途が立っていないので,「おうちでオフィスアワー」を続けている.受けた質問がいずれも,記載内容の違いについてだったので*1,それぞれが本を読んでイメージを追いかけているのだろうと想像していた.

中世*2の解剖学者は文献の検討ばかりしていた.14世紀のローマでは実証的な解剖学が制限されており,遺体を直接に観察するよりも,ギリシャ時代の著書を翻訳し,文献検討することが重視されていた.その中でもガレノス*3の影響が特に強く,彼の著書が権威的な医学の教科書となり,変えることは許されなかったと言われている.「全ての器官は神によって作られた完全なものである」というガレノスの考えはキリスト教主義のもとで広く行きわったった.

当時は実証的な探索を行う者はほとんどおらず,スケッチをとって解剖図を作ることは重視されなかった.ギリシャ時代から使われてきた図版を模写して使っていたので,誤りが多く含まれていた.*4

権威の下で硬直したところとは離れて,画家達の中に人体を正確に描くために表面の筋肉や骨格の解剖学に興味をもつ者が現れた*5 *6.その中のひとり,1452年生まれのレオナルド・ダ・ビンチ*7は人体を正しく表現する為に解剖を行い,解剖学そのものに興味をもち,芸術的解剖学をこえて,実証的な解剖学にアプローチした*8 *9 *10

*1:「解剖実習の手引き」に書いていることと「イラスト解剖学」に書いていることが違うのですが,どちらが正しいのでしょうか?とか,「グレイ解剖学」に書いていることと「イラスト解剖学」の内容が違うのですが?とか.

*2:15世紀以前

*3:

en.wikipedia.org

*4:空気が肺から取り入れられて,心臓に入ると考えられていた.心臓で空気は vital sprit に変わり,動脈を経由して,全身に運ばれ,vital sprit は脳に辿り着いた後 animal sprit に変換され,脊髄を流れると考えられていた.そのころ神経は管になっていて,sprit を運んでいると考えられており,筋肉の運動は神経を経由して運ばれるspritによって引き起こされると信じられていた.

*5:新しいことをはじめるヒトは周辺から現れて,中央を変えていく.その様な例には事欠かない.

*6:

ja.wikipedia.org

*7:

en.wikipedia.org

*8:無批判にうのみにしないこと.自ら確かめ,考え,表現すること.検証し,新しい問を提出すること.

*9:レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖図集 レオナルド・ダ・ヴィンチ (著), 松井 喜三.みすず書房 (1981)

*10:学生の時に↑この本を狸小路旭屋書店で買った.旭屋書店は2003年に札幌駅に移転した後に2009年に閉店した.本は今でもオフィスの本棚にある.