上肢帯;「頭と体幹」の接点に生じる「体幹と上肢」のインターフェイス

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Henry Vandyke Carter (1831–1897) in Henry Gray (1825–1861). Anatomy of the Human Body. 1918. Fig.204. Posterior view of the thorax and shoulder girdle.

上肢帯(shoulder girdle)*1は頭と体幹体幹と上肢のインターフェイスにある.上肢が発生する際に,皮筋板由来のmesenchyme*2と側板中胚葉由来のsomatopleuric mesenchyme*3が肢芽の根元に集まり,細胞塊をつくる.皮筋板に由来する細胞の多くは肢芽の中に移動し,上肢の筋に分化するが,一部は体幹の方向に再び戻るように内側に移動する.このとき腹内側に移動するものは大胸筋,小胸筋と前鋸筋に,背内側に移動するものが広背筋と菱形筋に分化する.しかしながら,内側に再移動したもの中にはfateを変更して肩甲骨の内側部分に分化する細胞集団がある.fateを変更して生じた肩甲骨内側と体幹は菱形筋と前鋸筋で結ばれる.

 somatopleuric mesenchymeに由来する細胞は移動することなく肢芽の根元に留まり,肩甲骨の肩関節窩と烏口突起に分化する.そのため,肩甲骨は複数の起源をもつハイブリッドである.肩甲骨の外側部分は側板中胚葉に起源を持つsomatopleuric mesenchymeに由来し,内側部分は体節に起源を持つdermomyotome由来である*4 *5 *6

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Henry Vandyke Carter (1831–1897) in Henry Gray (1825–1861). Anatomy of the Human Body. 1918. FIG. 409. Muscles connecting the upper extremity to the vertebral column.

 この様な相互作用のさなかを 鎖骨下動脈ー腋窩動脈ー上腕動脈 の循環の経路が作られる.肢芽の基部に近い第七節間動脈から分岐して,網目状に吻合した動脈が形成され,肢芽に侵入し,本流として発達する本幹と,徐々に失われていく側枝が分かれる.その過程で血管分岐部の近位遠位軸上の変異や,異常なパターンという個体間のバリエーションが形成される余地が生じる.

 口腔外科のIさんと1時間話し,2人でとても満足する.気がつかなければ見過ごしてしまうことの中に,クリティカルな事がある.それを指摘して知らしめることに価値がある事を教えられる.

*1:上肢帯の骨は肩甲骨と鎖骨である.体幹の骨と,上肢帯の骨,更に上肢の骨の間を種々の筋が結んでいる.例えば僧帽筋,胸鎖乳突筋,大小菱形筋,肩甲挙筋,前鋸筋,大小胸筋,広背筋,大円筋,小円筋,肩甲下筋,棘上筋,棘下筋,三角筋,烏口腕筋である.

*2:https://en.wikipedia.org/wiki/Mesoderm

*3:https://en.wikipedia.org/wiki/Somatopleuric_mesenchyme

*4:Valasek P, Theis S, Krejci E, Grim M, Maina F, Shwartz Y, Otto A, Huang R, Patel K. Somitic origin of the medial border of the mammalian scapula and its homology to the avian scapula blade. J Anat. 2010 Apr;216(4):482-8. doi: 10.1111/j.1469-7580.2009.01200.x.

*5:Valasek P, Theis S, DeLaurier A, Hinits Y, Luke GN, Otto AM, Minchin J, He L, Christ B, Brooks G, Sang H, Evans DJ, Logan M, Huang R, Patel K. Cellular and molecular investigations into the development of the pectoral girdle. Dev Biol. 2011 Sep 1;357(1):108-16. doi: 10.1016/j.ydbio.2011.06.031.

*6:肩甲骨の第三の起源は神経堤細胞である.神経堤細胞は肩甲棘になる.