↑の網膜組織像で,光は下から上へ通過して,視細胞層に到達するので,画面の下方を走行する血管(網膜中心動静脈の枝)の影が,視細胞に写る.しかし,私達は普段,血管の影を認識することはない.
瞳孔を通して入った光は,血管の影を網膜の視細胞層の上の同じ場所に作る.眼球が運動しても,血管と視細胞層の相対的な位置は変わらないので,血管はいつも同じ場所に影を作る.静止した影は網膜の順応によって認識されない.逆に考えると,通常と異なる経路で光を入れれば,異なった場所に影が写るので,私達は自分の網膜の血管を見ることができるはずだ.
暗い部屋に入りしばらくした後に,正面を向いた状態で,外側に30°程度の位置に持った懐中電灯を上下に揺らすように動かして,眼球に光を入れると,自分の網膜の血管を樹枝状の影として見ることができる.これを発見したのがプルキンエ*1である(「Purkynjeの血管像」)*2.
プルキンエは卒業論文*3を書き,プラハ大学を卒業し,1837年に小脳プルキンエ細胞を,1839年に心臓の刺激伝導系のプルキンエ線維を発見する.
*1:Jan Evangelista Purkyně 1787 – 1869
*2:目の中の構造を自ら見ることを内視現象(entoptic phenomena)と言う.硝子体の中を浮遊するものを見る「飛蚊症」もその例である.
*3: "Beitraege zur Kenntnis des Sehens in subjektiver Hinsicht." (Prag. 1819) http://echo.mpiwg-berlin.mpg.de/ECHOdocuView?mode=imagepath&url=/permanent/library/7SHFC3A4/pageimg