表現型可塑性②

ウォディントンは遺伝子型を表現型に転換する進化的研究が必要だと述べ,遺伝子から個体に到達するためには,遺伝子型を表現型に繋ぐ機構があると考えていた.遺伝子型の内部には幅を持った表現型をつくるという反応基準が存在する.このような表現型可塑性の機構も自然選択を受ける形質であり,表現型可塑性は変異,選択,対立遺伝子の頻度変化という,進化の基本的な考えと矛盾しないはずである*1

これまでに,ドブジャンスキーは反応基準は遺伝子と同等として,遺伝のメンデル的な単位だと主張した*2. ベイトマンは表現型可塑性のモデルを考えた.遺伝的同化では,表現型の可塑性の機構には3つの場合があることを示した*3 *4

  1. 平均(反応基準)が閾値の方に動く.
  2. 閾値が平均(反応基準)の方に動く.
  3. 分散が大きくなり閾値の上にかぶる.平均と閾値は変わらない.

現在,進化における遺伝子の変異には少なくとも3つの場合があると考えられている.①構造遺伝子の対立遺伝子レベルでの変異,②調節遺伝子の対立遺伝子レベルでの変異,③可塑性に関わるエピジェネティックな変異,である.

一方で,進化にともなって遺伝子発現レベルでおこりうる変化はヘテロサイバニー(heterocyberny)とよばれ,4種類に分けられる*5;転所性(heterotopy,発現場所の変化),転時性(heterochrony,発現時期の変化),転量性(heterometry,発現量の変化),転型性(heterotypy,発現種類の変化),である.調節遺伝子(遺伝子の発現調節領域)に突然変異が影響を及ぼした場合に,転所性・転時性・転量性が引き起こされると考えられ,構造遺伝子(遺伝子のタンパク質コード領域)に突然変異が影響を及した場合に,転型性が引き起こされると考えられる.シャマルハウゼンは遺伝的同化においては調節遺伝子に変異が起きていると述べた(シャマルハウゼンの調節遺伝子モデル)*6

*1:West-Eberhard, M. J. 2005. Phenotypic accommodation: adaptive innovation due to developmental plasticity. J. Exp. Zool. (MDE) 304E:610-618.

*2:Sarker, S. and Fuller, T. 2002. Generalized norms of reaction for  ecological developmental biology. Evol. Dev. 5: 106-115,

*3:Bateman, K. G. 1959. Genetic assimilation of the dumpy phenocopy. J. Genet. 56: 341-352.

*4:Ruden, D. M. et al. 2003, Waddington's widget: Hsp90 and the inheritance of acquired characteristics. Sem. Cell Dev. Biol. 14: 301-342.

*5:Arthur, W. 2004. Biased Embryos and Evolution. Cambridge University Press, Cambridge.

*6:Schmalhausen, I. I. 1949. Factors of Evolution: The Theory of Stabilizing Selection. Blakiston, Philadelphia.