表現型可塑性①

数理的なモデルは突然変異と組換えが集団の中に優勢な表現型を1つの型から別の型に変えうることを示した.しかし,体の構造が進化する理論と,遺伝的な変化の理論は,同列では無い.現代の総合説は自然選択が作用を及ぼす形態の変異を充分に説明しなかった.遺伝子と体の構造の変化を包含する進化についての納得できる説明は乏しい*1

1つの遺伝子型をもつ個体が2つ以上の表現型を発現する能力を表現型可塑性とよぶ.2つのタイプの表現型可塑性が知られている.反応基準 reaction norm は,個体が遭遇する環境が表現型を決定し,ある範囲にわたって可能な表現型が連続的に生じる現象を表す,反応基準では環境条件の関数として表現型があらわされる.多相現象 polyphenisms では環境によって誘発される表現型が不連続な変異を示す.

表現型可塑性にはいくつかの異なった表現があるが,共通するのは①環境が表現型を誘導する,②適応的な表現型が選択される,という二段階である.

  • ボールドウィン効果は環境によって誘導される表現型が新たな突然変異によって固定化されることを強調する.
  • 遺伝的順応は可塑性が有益とみなされ,可塑性を表す遺伝子が選択されることを強調する.
  • 遺伝的同化は環境によって誘導される表現型が既に存在する遺伝的変異によって固定化されることを強調する.

*1:ギルバート,イーベル(正木,竹田,田中訳).生体進化発生学ーエコ・エボ・デボの夜明け.東海大学出版会,2012.